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日本図学会第2回デジタルモデリングコンテスト

日本図学会第2回デジタルモデリングコンテスト実施結果報告

第2回デジタルモデリングコンテスト実行委員会 委員長
町田 芳明 Yoshiaki MACHIDA


2008年5月10日(土),11日(日)の両日,「日本図学会2008年度大会」の開催に合わせ日本図学会第2回デジタルモデリングコンテストを実施したので報告する.

■開催の目的
日本図学会は,コンピュータを用いたデジタルモデリング技術を普及させるために,立体的な機構や立体的な造形物の創造をラピッドプロトタイピングを用いて支援するコンテストを開催する.

■目的と内容
メカニズムの立体的な構造の考案や立体的な発想による立体形状の製作を支援し,作品発表の場を提供すること,コンピュータを用いたデジタルモデリング技術を普及することを目的とする.複雑な動きを持つ対象,建築,工業デザイン,デジタルアート作品までを含めた幅広いジャンルの3次元モデルを募集の対象とする.

■審査基準
これまでの技術では製作することが困難だった複雑な機構や幾何学的図形を実体化するなど,積層造形装置を利用することによって実現が可能になった立体構造の新規性を評価する.審査は実行委員会の7名によって行う.

■作品の募集
 2007年12月1日から2008年3月24日までの期間に募集を行い,20作品の応募があった. 


■審査結果

表1 入選一覧表
タイトル 氏名 所属 職業
最優秀賞 shelling julia 中山雅紀 慶応義塾大学大学院理工学研究科 学生
優秀賞 三角柱をひねったガラガラ 小柳久佐 個人 自由業
優秀賞 立体玉転がしパズル 三浦公裕 株式会社 白組 会社員
優秀賞 BLOSSOM 横山弥生 大同工業大学情報学部情報デザイン学科 教員
入選 燃料電池式電動アシスト自転車 鈴木靖生 スズキ デジタルデザイン ファクトリー フリーランスデザイナー
使えない壷(螺旋) 小柳久佐 個人 自由業
リフラクティング メビウス ループ 鈴木広隆 大阪市立大学大学院工学研究科 教員
エッシャーの滝 鈴木賢次郎
近藤邦雄
小林一也
東京大学教養学部
東京工科大学 メディア学部
東京大学
教員
教員
学生
DNAのリボンモデル 鈴木賢次郎 東京大学教養学部 教員
フリーハンドスケッチによる3次元形状モデリング 近藤邦雄
黄檗雅也
大竹豊
金井崇
道川隆士
東京工科大学 メディア学部
埼玉大学
東京大学
東京大学
東京大学
教員




最優秀賞 : shelling julia
最優秀賞の作品「shelling julia」(製作:中山雅紀氏)はフラクタル幾何学のジュリア集合を三次元モデルにした作品である.(注釈参照)フラクタルのジュリア集合を平面上に描いたものはよく見かけるが,立体に表現した作品はこれまで無かった.作者は,学生CGコンテストに静止画部門に応募したことがあるのでそれが最初と思われる.さらに,それを実存する立体物に製作したのは,日本ではおそらく今回が始めてであろう.世界でも稀有なアイディアの作品である.審査委員からは「フラクタルの3次元化は例があるが,これはみていない.」「数学モデルを造形化したことに意味があり,特に形態の引き出し方(トリミング)の巧みさを高く評価する.」といった声が聞かれた.



優秀賞 : 三角柱をひねったガラガラ
 優秀賞の作品「三角柱をひねったガラガラ」(製作:小柳久佐氏)は,メビウスの輪をヒントにした作品である.溝の中を玉が転がる玩具としているが,本来は裏表の2面であったメビウスの輪を3面にして立体的に置き換えており,アイディアも造形も優れた作品である.審査委員からは「玉の動きによってメビウスの輪の特徴を視覚化したアイディアが秀逸.」「ひねった形態が造形的に美しい.」「用いる技術の利点を最大限生かしている.」といった意見があった.完成した造形モデルを手にとって見るとこのアイディアの面白さが良く分かる.



優秀賞 : 立体玉転がしパズル
優秀賞の「立体玉転がしパズル」(製作:三浦公裕氏)は,玩具としての面白さや,積層造形装置で製作することを見据えた作品であることなどが評価された.完成したモデルで遊んで見ると,人それぞれに新しい遊び方やアイディアが沸いてくる.いわば,立体的な発想力を喚起するオモチャである.



優秀賞 : BLOSSOM
優秀賞の「BLOSSOM」(製作:横山弥生氏)は,数理造形から生まれた作品である.数学モデルから幾何形状を描くことはこれまでにも可能だったが,それを3次元化し実在するモデルにすることができた.審査委員からは「従来の授業では,立体物にするところまで行っているところは聞いたことがない.今後の図学教育の新しい授業形態として提案できると思う.」といった意見があった.展示会場で,この作品に触れて感動した方も多いことだろう.


■総評
 全ての作品に言えることだが,書類により審査を行った時と,製作された作品を手にした時とでは印象や評価が大きく異なった.全ての作品のモデルを製作してから審査を行えば,あるいは今と違った結果になっていたかもしれないが,製作費が膨大なので現実的にはそれは困難である.今回のデジタルモデリングコンテストは,技術的にも感性においても素晴らしい作品に恵まれた.中でも数理造形による作品の応募が多数あり,いずれも優れた作品であった.この催しによって,先進的なアイディアが形となり,発信されていく,その瞬間に立ち会えたことを栄誉に思う.来年のデジタルモデリングコンテストには,どんな作品が登場し私たちを驚かせてくれるか,今から楽しみである.今回のコンテストは,年度末の忙しい時期に重なったにもかかわらず,応募者ならびに企画にご協力くださった会員の皆様のおかげで素晴らしい結果を残すことができた.また,東京大学大学院情報理工学系研究科数理情報学専攻 杉原厚吉先生には,特別展示として「不可能立体」をテーマにした作品数点をお借りし展示させていただいた.ここに厚く御礼申し上げる次第である.

まちだ よしあき
埼玉県産業技術総合センター

(注釈)フラクタルは樹木の枝分かれなどに見られる複雑な図形を数学的に理論化したものであり,相似した図形が繰り返し現れる規則性が特徴的である.自然の造山活動により生まれた形状や,雲の形,水面の波型,砂丘に現れる風紋,貝の形,木の枝の形など,自然界に存在する現象を説明するための数学モデルとして,CGによって自然の風景を描くような場合などに利用されることがある.